しばらくの間、遺産分割を禁止したい:遺言書作成の実例

遺言書作成の実例:しばらくの間、遺産分割を禁止したい

遺産分割を行う際には、相続人間での協議が必要です。しかし、相続人同士の折り合いが悪かったり、家庭内での問題が解決されていなかったりすると、遺産分割がスムーズに進まない場合があります。特に、相続人が未成年の子どもや、家庭内でトラブルを抱えている場合には、遺産分割をすぐに行うことが難しく、結果的に不公平や不満を招く可能性があります。

そのようなケースで有効なのが、遺産分割の禁止期間を設けることです。ここでは、遺産分割を禁止する期間を定め、しばらくの間猶予を与える方法について詳しく解説します。

遺産分割の禁止期間とは?

遺産分割の禁止期間とは、相続開始から一定の期間、相続人が遺産を分けることを禁止する制度です。民法では、相続開始から最大5年間、遺産分割の協議を行わないようにすることが可能です。この期間を設けることで、相続人が精神的に落ち着いて遺産分割協議を進めることができるようになります。

遺言書にこの禁止期間を定めることにより、相続人同士の感情的な対立を避け、冷静に協議を行うための時間を確保できます。これにより、遺産分割の際に無理やり分割しなければならない事態を防ぎ、特に遺産の中で最も重要な自宅に関する処分を先送りにすることができます。

禁止期間を設ける目的と利点

禁止期間を設ける主な目的は、相続人間で冷静な協議ができる環境を整えることです。以下のような状況で、禁止期間を設けることが有効です。

  • 相続人間の折り合いが悪い:相続人同士の対立が強い場合、すぐに遺産分割を行うと、感情的な対立が悪化し、解決が難しくなります。この場合、時間を置くことで、冷静に話し合うことができます。
  • 自宅の処分を避けたい場合:遺産分割を行うと、自宅が処分される可能性が高い場合、妻が住んでいる自宅を守るために、遺産分割を先送りにすることが有効です。特に、他の相続人が自宅を売却しようとする場合、この方法が重要です。
  • 家庭内での問題(子どもの教育、非行、離婚問題):相続人が未成年の子どもであったり、家庭内にトラブルがある場合、感情的な対立や不公平感を避けるために、遺産分割を先送りにし、問題が落ち着くまで待つことができます。
  • 相続人がまだ学生である場合:未成年の相続人がいる場合、教育の問題が解決してから遺産分割を行う方が良いケースもあります。

このように、遺産分割の禁止期間を設けることで、相続人が冷静に協議を行い、遺産分割に関するトラブルを回避することができます。

具体的な禁止期間の設定

遺言書に遺産分割の禁止期間を記載する際には、具体的な期間を明記することが大切です。一般的には、最大5年間の期間を設けることができますが、状況に応じて、1年、2年といった短期間に設定することも可能です。

遺言書の文例

「私は、相続開始の日から5年間、相続人間で遺産分割協議を行わないことを命じます。その期間中に相続人間で問題が解決できなかった場合、その後、適切な時期に遺産分割協議を開始するものとします。」

また、この禁止期間中に、相続人間で何らかの問題解決を促進するための措置を取ることもできます。例えば、「相続人が問題解決に向けて協力すること」や「遺産分割に向けたカウンセリングを受けること」などの条件を追加することも考えられます。

遺産分割を先送りにするケース

遺産分割を先送りにしたいケースとして、以下のような状況が考えられます。

妻の住む家を守りたい

遺産分割を行うことで、妻の住んでいる自宅が処分される可能性があります。妻の住む家を守るために、遺産分割を延期することは合理的な選択です。特に、他の相続人が自宅を売却しようとする場合、遺産分割をしばらくの間禁止することで、妻が自宅に住み続けることが可能になります(配偶者居住権については、別途解説します)。

相続人に未成年者や学生がいる場合

相続人がまだ学生である場合、教育に専念させるため、また、未成年者が法的に扱うのが難しいため、遺産分割を禁止することが適切です。未成年の相続人が成人するまで、遺産分割を延期することで、より適切な判断ができるようになります。

家庭内の問題がある場合(離婚、非行問題など)

家庭内で深刻なトラブル(離婚、非行問題など)が発生している場合、その問題が解決するまで遺産分割を延期することが賢明です。これにより、相続人同士で感情的な対立を回避し、冷静に遺産分割を行うことができます。

遺言書作成における行政書士の役割

行政書士は、遺言書作成の際に、法的なアドバイスを提供し、遺言内容が正当であるかを確認する重要な役割を担います。遺産分割の禁止期間を設ける場合、行政書士はその内容が適切であるかをチェックし、遺言書が法的効力を持つようにサポートします。

また、遺産分割の先送りに関しては、行政書士が遺言書における禁止期間の記載方法や注意点を説明し、相続人が後々トラブルを起こさないように配慮した内容を提供します。さらに、禁止期間中に必要となる手続きや調整を行うためのサポートも行います。

まとめ

遺産分割をすぐに行うことが難しい場合や、相続人間の問題が解決していない場合には、遺産分割を一定期間禁止することが有効です。遺言書で遺産分割の禁止期間を定めることで、相続人が冷静に協議を進めるための時間を確保することができます。

特に、妻の住む家が処分されないようにしたい、未成年者がいる、家庭内に問題があるなどの状況では、この方法が有効に機能します。遺産分割の禁止期間を設けることで、相続後のトラブルを回避し、適切なタイミングで円滑な遺産分割が行えるようになります。

遺言書作成においては、行政書士が法的なアドバイスを提供し、遺産分割をスムーズに進めるためのサポートを行います。