家系図は「戸籍があればいつでも作れる」は誤解です
近年、ルーツをたどる手段として「家系図」を作る人が増えてきました。
しかし、「戸籍があればいつでも作れる」と思っていると、実はそれが大きな誤解であることに気づかされます。
ここでは、家系図作成に関心を持つすべての方に向けて、戸籍制度の仕組み、無戸籍の現実、そして記録としての家系図の意義を、解説ベースでお伝えしていきます。
家系図作成の第一歩は「戸籍」を集めること
家系図を作るには、まず戸籍をたどって「誰が、いつ、誰の子として生まれ、誰と結婚し、いつ亡くなったのか」という基本的な情報を集める必要があります。
現在の戸籍制度では、こうした個人の身分関係(親子・婚姻など)が法的に記録されています。
例えば、ある人物を中心に以下のような流れで情報を取得していきます。
- 本人の現在の戸籍 → 親の名前と本籍地
- 親の戸籍 → 祖父母の情報
- 祖父母の戸籍 → 曾祖父母やそれ以前の世代
これを繰り返すことで、数世代にわたる系譜をたどることができます。
戸籍は永久保存?実は古い戸籍は廃棄される
戸籍は「公文書」です。そのため、保存期間に関するルールがあります。
除籍・改製原戸籍の保存期間は150年
- 除籍謄本(誰も在籍していない戸籍)
- 改製原戸籍(制度改正により作り替えられた戸籍)
これらの戸籍は、原則として作成から150年の保存期間が経過すると、廃棄される可能性があります。
この保存期間は法務省の通知に基づき、各自治体が順次管理しています。
したがって、明治時代や大正時代に作られた古い戸籍は、すでに保存期間の終わりが近づいているか、廃棄が始まっている地域もあります。
「そのうちでいい」と思っていたら、いざ家系図を作ろうとしたときに、もう戸籍がなかった――
こうしたケースが現実に起きています。
家系図作成には戸籍?住民票?違いを解説
しばしば混同されるのが「戸籍」と「住民票」です。
しかし、両者はまったく異なる目的・性質を持つ書類です。
項目 | 戸籍 | 住民票 |
---|---|---|
目的 | 身分関係の記録 | 居住関係の記録 |
管轄 | 本籍地の役所(戸籍係) | 住所地の役所(住民係) |
内容 | 親子関係、婚姻、死亡など | 現住所、世帯主、続柄など |
保存期間 | 除籍後150年 | 転出・死亡後5年程度 |
家系図を作るには、「親子関係」や「出生年月日」などが正確に分かる戸籍が不可欠です。
住民票には親子関係の明記はなく、家系図作成には利用できません。
戸籍に載っていない人がいる?無戸籍者の実態
家系図をたどっていくと、「あるはずの人物の記録がどこにもない」といった事例に遭遇することがあります。
その一因として挙げられるのが「無戸籍者」の存在です。
無戸籍者が生まれる主な原因
- 出生届が出されていない
親の事情(DV、貧困、無知など)で出生届が未提出の場合、戸籍が作成されず、法的には「存在しない」ことになります。 - 離婚後300日以内に出産したケース
これまで、離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子と推定されていたため、実際の父親との食い違いを避けようとして、届出自体をしないケースがありました。なお、この離婚後300日問題については、2024年4月1日に改正民法が施行され、離婚後300日以内に生まれた子どもでも、母親が再婚していれば、再婚後の夫の子と推定されるようになりました。 - 在日外国人や外国人との間に生まれた子
国際的な手続きがうまくいかず、戸籍登録されないまま成長してしまう例もあります。
このような背景を持つ無戸籍者は、学籍の取得や就職、婚姻届の提出、パスポートの取得といった場面で困難に直面します。
家系図を作る際も、無戸籍の人の情報がないことで空白が生じてしまうのです。
家系図作成=戸籍情報を未来に伝える使命
戸籍は「法律上の身分関係を証明する書類」であると同時に、「家族の歴史を記録する資料」でもあります。
家系図の文化的・法的意義
- 家族のつながりを次世代に可視化できる
- 将来的な相続手続きや親族関係の証明にも役立つ
- 認知症を患った際の成年後見制度利用時の家族構成の整理にも活用できる
- 役所で保存できなくなった戸籍の代替保存としての意味も持つ
つまり、家系図を作成することは、「戸籍の写し」を超えて、一つの記録遺産としての役割を果たすのです。
家系図作成の課題と価値、行政書士の視点
行政書士は、戸籍の取得代行や、法的書類の作成を業務とする国家資格者です。
現場で感じるのは、「家系図を作っておけば良かった」という声が、戸籍が失われてから届くことの多さです。
家系図作成で行政書士が直面する現実
- 「親が亡くなった後、戸籍を集めたが、曾祖父の記録が廃棄されていた」
- 「戸籍にくずし字や旧字体が使われていて、解読できなかった」
- 「複数の市町村にまたがるため、収集だけで数か月かかった」
こうした課題は、個人での対応が難しい理由でもあります。
行政書士が関与することで、客観的・正確な家系図がより効率よく作成されるというメリットがあります。
戸籍は失われる。家系図は「今」しか作れないかもしれない
✔ 戸籍の保存期間は150年。明治〜昭和初期の戸籍は今後廃棄対象になる可能性がある。
✔ 戸籍と住民票はまったく異なる。家系図作成には戸籍が必要不可欠。
✔ 無戸籍という社会的課題も、家系図作成に影響を与える現実がある。
✔ 家系図を作ることで、戸籍情報を未来に伝える意味が生まれる。
家系図作成は家族の歴史を残す大切な文化的行為
家系図の作成は、単なる趣味や記念ではなく、「家族の歴史を記録する文化的行為」とも言えるでしょう。
今ある戸籍も、いつかは廃棄されるかもしれません。
知識として、今この事実を知っておくこと。
それが、これからの人生や家族との対話、そして未来への記録づくりに、きっとつながっていくはずです。